【書  名】 妖姫 贄の刻印
【ふりがな】 あやかしひめ にえのこくいん
【作  者】 弥彦澤典子 著
【イラスト】 加倉井ミサイル 表紙・挿絵
【初版発行】 2001年01月01日
【発  行】 エニックス/EXノベルズ
【版  型】 新書/247頁
【定  価】 840円+税

「いけないよ。ほかの土地ならともかくね。ここの魑魅社には、本物の魑魅さまが出るんだから」長田村の老婆

 旅回りの芝居一座、稲妻一座の看板は、若手兄弟役者、音也と女形の百合若だった。この国の中を渡り歩き、土地土地の小屋で評判を取った一座は、黛の都に通じる本街道沿いの大きな宿場町泉州朝倉町の宿場に小屋がけをすることになった。
 この瑞穂(みずほ)の国は、かつて二百余領に分かれ、小競り合いを続けていた。この国を統一した、銀苓(ぎんれい)天皇の統一伝説にある、銀苓天皇に力を貸した様々な精霊や魔物、すなわち魑魅(すだま)を祀る魑魅社(すだまやしろ)が村々に建ち、人々の尊敬を集めている。とはいえ、魑魅が姿を見せたのは遠い昔のこと、今では、人々は手こそ合わせるものの、実際に魑魅が人を襲うことなどありはせぬと思っていた。
 しかし、朝倉の町では話が違った。七年前に不審火で古社が燃えて以来、この町では数々のあやかしが、目撃されたり、血の付いた衣服を残して子供が行く方知れずになったりと、怪しい出来事が続いていた。
 そんなこととはつゆ知らず、魑魅社を見に行った百合若は、柄の悪い男達に取り囲まれている町娘を助け出した。それが、自分の生まれに関わる大事に発展するとは知らずに。

 あまり、大げさな妖怪退治や超能力戦を想像されると、ちょいと違うかも知れない。これは、あくまでも時代劇なのだ。とはいえ、普通の江戸時代とかいうわけではない。ストーリー紹介で触れているように、この世界は、瑞穂の国と呼ばれ、天皇がいて、将軍がいる。しかし、その歴史は我々の知る日本のものとは大きく異なり、文化も微妙に違っているらしい。しかし、基本はしっかり押さえられていて、隠し戸に地下牢、抜け荷に娘の人身売買と、悪人のやらかすことはいつの世も同じだ。安心して時代劇として読める。だからといって、これがそれだけの話というわけではない。この話はさらに続く。おのれの出自を知った百合若と真の兄弟でないとしても変わらず弟の身を案じる兄の音也、そしてそれをとりまく稲妻一座の面々は、この安定した現実世界から、どこへ向かって旅をするのか。まだまだ見守りたい物語の、これは発端のお話である。
(神 2001/06)