【書  名】 夏の鬼 その他の鬼 〜Summer Rord,Again〜
【ふりがな】 なつのおにそのほかのおに さまーろーどあげいん
【作  者】 早見裕司 著
【イラスト】 川原由美子 表紙
【初版発行】 2001年01月01日
【発  行】 エニックス/EXノベルズ
【版  型】 新書/259頁
【定  価】 860円+税

「きょうね、こわいものを見たよ。だれかが、だれかをうらんでいるみたい。なにか、ふつうではないことを、しようとしていると、思うの。止めなくちゃ」水淵季里

 主人公水淵季里(みなぶちきり)は、唯一の身寄りだった姉の交通事故死により、姉の婚約者の相沢紘史(あいざわひろし)に引き取られ、その弟で同級生の恭司(きょうじ)とともに、東京西部の小さな街で暮らしている。恭司とともに逝川(せいせん)高校に進学した季里は、そこで、多くの出会いや別れ、そして再会を経験しつつ、少しずつ成長してゆく。少女の周りで起こる小さな事々が、次第に彼女を輝かせてゆく。
 これは、どう紹介したらよいのだろう。普通、私の書評は、物語の出だしを紹介し、その理解に繋がる背景や周辺の状況を解説するのだが、そういう方法では、この澄んだ水が形をなしたような透明感のある物語を表現することが出来ない。まず、一読していただくしかない。ぽわぽわっとした触感とは異なり、要約すれば壊れてしまうほど、繊細で緻密な構造を持った、一字一句欠けても成り立たないほどに研ぎ澄まされた物語がそこにある。季里のことを霊感少女と称したり、その行動を幽霊祓いや妖怪退治と呼んだ途端に、この世界観は濁ってしまう。それほどまでに繊細な世界観なのだ。
 物語は、4つのお話から成っているが、この物語の特質として、主人公の成長を描くことが、主人公と周りとの関わりを描くことと同意なので、前のお話に出てきた小さな事がいくつも後のお話に関わって来る。単なる伏線ではなく、それが季里の成長の過程であることを、ぜひ読み解いて頂きたい。
(勝 2001/06)